統計分布
分布を使う理由
実際のプロセスにはばらつきがあります。カスタマーサービスへの電話対応に5分かかる日もあれば、25分かかる日もあります。ある日は注文が50件でも、翌日は120件になることがあります。このような自然な変動は、業務プロセスの基本的な特徴です。
固定値(たとえば「すべてのアクティビティに必ず10分かかる」)を使うと、現実離れしたシミュレーションになります。分布を使えば、ばらつきを数値で表現し、実際のプロセスに近い動作を再現できます。
ばらつきによる影響
平均10分のTaskについて、次の2つのシナリオを考えてみましょう。
| シナリオ | 分布 | シミュレーションへの影響 |
|---|---|---|
| 固定10分 | ばらつきなし | 現実離れした待ち行列、予測可能なパターン |
| 正規分布(平均=10、標準偏差=3) | 現実的なばらつき | 自然な待ち行列の動き、現実に即した遅延 |
2つ目のシナリオのほうが実態をよく表しています。すぐに終わるTaskもあれば、時間がかかるTaskもあります。こうしたばらつきによって、実際のプロセスで見られる待ち行列が再現されます。
利用できる分布
ProcessMindでは、さまざまな変動をモデル化するために、9種類の分布を用意しています。
| 分布 | 適した用途 | 主なパラメーター |
|---|---|---|
| 固定 | 値が一定で変化しない場合 | 値 |
| 標準 | 平均を中心に左右対称に変動する場合 | mean、stdDev |
| 均一 | 範囲内のどの値も同じ確率で発生する場合 | min、max |
| 三角分布 | 最も起こりやすい値がある範囲を表す場合 | min、mode、max |
| ポアソン | イベントがランダムに発生する場合 | lambda、rateUnit |
| 対数正規 | 右に裾を引く分布(通常は短時間、ときに長時間) | mean、stdDev |
| ワイブル | 信頼性や故障の分析 | scale、shape |
| ベータ | 最小値と最大値の間で柔軟な形状を表す場合 | min、max、alpha、beta |
| Pearson VI | 複雑な偏りのあるパターン | alpha1、alpha2、beta |
固定分布
最も単純な分布で、常に同じ値を返します。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| 値 | 常に返される値 |
特性
- 変動がまったくありません
- すべてのサンプルで、指定した値がそのまま返されます
- システム制御や自動化されたステップのモデル化に適しています
使用する場面
- 処理時間が一定の自動システム応答
- 規制上のタイムアウトや期限
- 変動を加える前の初期シミュレーション設定
- SLAや契約上の時間制限のモデル化
例
システムが生成するメールは、常に5秒ちょうどで送信されます。
標準(ガウス)分布
よく知られた「釣鐘型」の分布です。値は平均を中心に左右対称に集まり、中心から離れるほど発生確率が低くなります。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| mean | 平均値(曲線の中心) |
| stdDev | 標準偏差(値のばらつき) |
特性
- 平均を中心に左右対称です
- 値の68%が標準偏差1つ分の範囲に収まります
- 値の95%が標準偏差2つ分の範囲に収まります
- 値の99.7%が標準偏差3つ分の範囲に収まります
- 理論上は負の値が生じることがあります(シミュレーション側で処理されます)
使用する場面
- 平均を中心に左右対称に変動する処理時間
- ランダム誤差を含む測定値
- 小さな独立要因が多数影響する値
例
データ入力タスクの平均処理時間が5分、標準偏差が1分の場合:
- 入力の68%は4~6分で完了します
- 95%は3~7分で完了します
- 2分未満または8分超となるケースはほとんどありません
均一分布
範囲内のすべての値が同じ確率で発生するため、確率分布は平坦になります。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| min | 発生しうる最小値 |
| max | 発生しうる最大値 |
特性
- 確率は一定で、特定の値がほかより起こりやすいことはありません
- minとmaxで明確に区切られます
- 平均は正確に(min + max)/ 2です
使用する場面
- 一般的な値は分からず、範囲だけが分かっている場合
- 範囲内からランダムに選ぶ場合
- 予定されたイベントを待つ時間
- 過去のデータがなく、不確実性をモデル化する場合
例
承認にかかる時間は2~8分ですが、通常どのくらいかかるかは分かっていません。この範囲内では、どの所要時間も同じ確率で発生します。
三角分布
最小値、最大値、最も起こりやすい値(最頻値)で表すシンプルな分布で、形状は三角形になります。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| min | 発生しうる最小値 |
| mode | 最も起こりやすい値(三角形の頂点) |
| max | 発生しうる最大値 |
特性
- 値は最頻値の周辺に集まります
- minとmaxの範囲内に収まり、範囲外の値は発生しません
- mode ≠(min + max)/ 2の場合、左右非対称になります
- 専門家の知見をもとに推定しやすい分布です
使用する場面
- 「通常はXですが、YからZの範囲になることがあります」と分かっている場合
- 専門家による推定
- 標準分布では現実的でない負の値が生じる可能性がある場合
例
請求書の確認:
- 最短の場合(min):2分
- 通常の場合(mode):5分
- 最長の場合(max):15分
ほとんどの確認は5分前後で終わりますが、複雑な請求書では15分ほどかかることもあります。
専門家による推定
三角分布は、専門家による推定をそのまま反映できます。「最短の場合は?通常は?最長の場合は?」と尋ねれば、min、mode、maxを直接設定できます。
ポアソン分布
一定の時間内に発生するイベント数をモデル化します。到着プロセスの表現に適しています。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| lambda | イベントの平均発生率 |
| rateUnit | 発生率の時間単位(perHour、perDay、perWeek、perMonth、perYear) |
特性
- 離散値(整数:0、1、2、3…)
- 分散は平均と等しくなります
- イベントは互いに独立しています
- 「ランダムな到着」を適切にモデル化できます
使用する場面
- プロセスへのケースの到着
- 顧客の到着
- 注文の発生
- 「一定時間内のイベント数」を扱うあらゆる場面
例
Lambda=20、rateUnit=perDayとすると、1日あたり約20件のケースが到着するモデルになります。日によって15件の日もあれば25件の日もあり、ランダムな到着に伴う自然な変動を表せます。
対数正規分布
値の大半は小さい一方、ときどき大きな値が発生する、右に裾を引く分布です。値の対数は標準分布に従います。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| mean | 生成される値の平均(対数の平均ではありません) |
| stdDev | 生成される値の標準偏差(対数の標準偏差ではありません) |
特性
- 常に正の値となり、負の値は発生しません
- 右に裾を引き、高い値の方向に長く伸びます
- 値の大半は低い範囲に集まります
- ときどき大きな値が発生します
使用する場面
- 通常は短時間で完了しますが、ときどき大幅に時間がかかるタスク
- 財務データや所得分布
- ときどき遅延が発生する応答時間
- バグ修正にかかる時間
例
テクニカルサポートのチケット:
- 大半は1~2時間で解決します
- 丸1日かかるものもあります
- まれに、複雑な問題の解決に数日かかります
対数正規分布は、「通常は短時間、ときどき長時間」というパターンを表します。
ワイブル分布
信頼性工学や故障分析でよく使われる、柔軟な分布です。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| scale | 尺度パラメーター(特性寿命) |
| shape | 形状パラメーター(分布の形を決定) |
形状パラメーターによる違い
| 形状の値 | 分布の傾向 |
|---|---|
| shapeが1未満 | 故障率が低下(初期故障) |
| shape = 1 | 故障率が一定(指数分布) |
| shapeが1より大きい | 故障率が上昇(摩耗故障) |
使用する場面
- 設備の故障時間
- イベント発生までの時間の分析
- 信頼性のモデル化
- 分布の形状を柔軟に調整したい場合
ベータ分布
最小値と最大値の間の値を生成し、2つのパラメーターで形状を調整できる柔軟な分布です。一般化ベータ分布(4パラメーター)とも呼ばれます。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| min | 発生しうる最小値 |
| max | 発生しうる最大値 |
| alpha | 1つ目の形状パラメーター(α > 0) |
| beta | 2つ目の形状パラメーター(β > 0) |
特性
- 値は常にminとmaxの間に収まります
- αとβに応じて、形状を幅広く調整できます
- α = βの場合、[min, max]の中点を中心に左右対称になります
- α < βの場合、値はmin側に偏ります(左に裾を引きます)
- α > βの場合、値はmax側に偏ります(右に裾を引きます)
- α = β = 1の場合、[min, max]の均一分布になります
- 平均 = min + (max − min) × α / (α + β)
形状パラメーターによる違い
| パラメーター | 分布の傾向 |
|---|---|
| α = 1、β = 1 | [min, max]の範囲で均一(平坦) |
| α = β | 中点を中心とする左右対称の釣鐘型 |
| α < β | 左に偏る(値はmin付近に集まる) |
| α > β | 右に偏る(値はmax付近に集まる) |
| α < 1、β < 1 | U字型(値は両端に集まる) |
使用する場面
- 範囲が分かっており、形状も調整したい、上下限のある値
- 既知の範囲の片側に集まるタスクの所要時間
- 確率や成功率のモデル化(min=0、max=1)
- 品質スコア、完了率、歩留まり
- 範囲が分かっており、値がどのあたりに集まるか見当がつく専門家の推定
例
確認タスクの所要時間は2~15分で、大半は短い方の時間で完了します。この場合はBeta(min=2, max=15, α=2, β=5)を使います。平均は約2 + 13 × 2/7 ≈ 5.7分です。値は短い方に集まり、2分未満にも15分超にもなりません。
Pearson VI分布
単純なモデルでは表せない、複雑で偏りのあるパターンに適した高度な分布です。
パラメーター
| パラメーター | 説明 |
|---|---|
| alpha1 | 1つ目の形状パラメーター |
| alpha2 | 2つ目の形状パラメーター |
| beta | 尺度パラメーター |
使用する場面
- データ分析から導かれた複雑な分布
- 単純な分布では過去のデータに合わない場合
- 高度な統計モデルを扱う場合
適切な分布の選び方
早見表:処理時間
| 状況 | 推奨する分布 |
|---|---|
| 平均を中心に左右対称に変動する | 標準 |
| 範囲(minからmaxまで)だけが分かっている | 均一 |
| 通常、最短、最長の時間が分かっている | 三角分布 |
| 通常は短時間、ときどき大幅に長くなる | 対数正規 |
| 時間が一定(まれなケース) | 固定 |
| 比率や確率(0~1) | ベータ |
早見表:到着率
| 状況 | 推奨する分布 |
|---|---|
| ランダムで独立した到着 | ポアソン |
| 一定の割合で到着 | 固定 |
ベストプラクティス
まずはシンプルに
標準分布または三角分布から始めましょう。理解しやすく、パラメーターも設定しやすいため、多くの場合は十分に機能します。必要に応じて、より複雑な分布を使います。
専門家の知見を使う
分野の専門家から、精度の高い推定値を得られることがあります。
- 「最短の場合は?」→最小値
- 「通常は?」→平均値または最頻値
- 「最長の場合は?」→最大値
データと照合する
過去のデータがある場合:
- データに分布を当てはめます
- シミュレーション結果を実際の実績と比較します
- 分布のパラメーターを調整します
外れ値を考慮する
実際のプロセスでは、外れ値が発生することも少なくありません。対数正規分布やワイブル分布は、標準分布や三角分布よりも外れ値を表しやすい場合があります。
プロセスの挙動に合わせる
- 左右対称の変動 → 標準
- 上下限のある変動 → 三角分布または均一
- 右に偏る分布 → 対数正規
- 比率(0~1) → ベータ
- 複雑なパターン → ワイブルまたはPearson VI