プロセスマイニングのデータクリーニングと準備
Process Mining のためのデータクレンジングと準備
Process Mining を成功させるには高品質なデータが必要で、そのためにはデータクレンジングと準備が不可欠です。データ品質が低いと分析精度が落ち、プロセス改善も難しくなります。本ドキュメントではデータクレンジングおよび準備の基本ステップを紹介します。
なぜデータクレンジングと準備が重要なのか?
Process Mining は、業務プロセス内のアクティビティを時系列で記録した event log に大きく依存します。データが不完全・不整合・エラーを含む場合、Process Mining のインサイトも信頼できません。クリーンで構造化されたデータがあれば、ツールはワークフローの可視化やボトルネック検出、改善点の特定を正確に行えます。
データクレンジングと準備の主なステップ
1. データ収集とインテグレーション
クレンジングの最初のステップは、関連システム全体から必要なデータを収集することです。データは ERP や CRM、他の業務システムなど多様なソースに分散しています。ここで data integration が登場します。
- データソースの統合: プロセスに関わる全システムのデータを集約しましょう。例:Order-to-Cash 分析なら Salesforce 等 Sales 系と SAP など会計系からデータ取得が必要です。
- フォーマットの統一: 次工程前にデータの書き出し形式や項目フォーマット(timestamp、通貨、ID など)を統一しておきます。
データが揃ったら Process Mining 用のクレンジング・準備に進みます。
2. 重複データの削除
重複レコードは Process Mining 分析でアクティビティ件数が増えたり、同じ event が複数回発生したように誤認される原因になります。正確なイベントログ作成には重複排除が必要です。
- 重複の特定: case ID・アクティビティ・timestamp が全て一致するレコードは重複なので確認します。
- 削除または統合: 重複レコードが見つかれば、削除または必要に応じて統合しましょう。
3. 欠損データへの対応
欠損値も Process Mining に影響するよくある問題です。timestamp、アクティビティ、case ID などが欠落するとイベント順序がずれたり、プロセスモデルが不完全になります。
- 欠損値の検出: blank timestamp、空白アクティビティ名、null case ID などをツールやスクリプトで検出します。
- 補完: 必要に応じて外部情報やドメイン知識・その他データから推定して補完します。例:アクティビティの timestamp が欠落していたら前後イベントから推定。
- 代入戦略: 重要度が高い欠損には平均値や回帰モデルによる補完、または回復不可能な場合はデータ除外とします。
4. データフォーマットの統一
データのフォーマットが一貫していれば、Process Mining ツールはイベントログを正確に解釈できます。正規化では timestamp 形式統一、アクティビティ名の標準化、case ID の統一構造などを行います。
- timestamp: すべての日付・時刻を「YYYY-MM-DD HH:MM:SS」のような統一フォーマットにします。タイムゾーン混在時は統一、もしくは UTC 化してください。対応日付フォーマットはこちら
- アクティビティ名: 異なるシステムで表記違いがある場合は統一(例:「Approve Order」と「Order Approval」などはまとめる)。
- case ID: システム間でも一意なIDとして、各プロセスインスタンスを正しく識別できるよう統一しましょう。
5. 不要データの除外
全てのアクティビティやイベントが Process Mining に必要とは限りません。例えばバックグラウンド処理や業務外イベントはデータセットを煩雑にします。
- 無関係イベント除去: 分析対象でないアクティビティ(例:システムログインや管理タスク)は除外し MAP を見やすくします。
- 主要アクティビティに絞る: ドメイン知識を元に分析に必要な重要イベントだけを絞り込みます。
6. 外れ値・ノイズへの対応
データ内の外れ値やノイズは、業務プロセスの通常パターンを誤って表現することがあります。例えば稀なイベントで極端に長時間かかったタスクがあると、分析結果に影響します。
- 外れ値検出: 統計的手法などで、平均より大幅に時間がかかるタスク等を外れ値として検出します。
- 残すか除外か: 外れ値が重要なケース(稀な障害等)でなければ除外し、通常フローに集中します。
7. ケース・アクティビティ順序の整合性
Process Mining ではイベントの正しい順序が特に重要です。順番が崩れている場合、ツールの描くプロセスフローが正しくなりません。
- アクティビティ順序確認: timestampでアクティビティが論理的な順になっているか確認します。例:「Order Approved」が「Order Created」より先にならないか注意。
- timestamp順ソート: case毎にtimestamp順でソートしイベント順序を担保します。
8. イベントログの作成
データをクリーンかつ統一フォーマットに整えたら、Process Mining 分析の土台である event log を作成します。event log には以下が必要です:
- Case ID: 各プロセスインスタンスごとの一意ID
- アクティビティ名: 各プロセスステップの名称
- timestamp: 各アクティビティ発生時刻(イベント順序の担保)
- オプション項目: 担当リソース、部署、プロセスカテゴリなど分析目的に応じて追加します。
9. データセットの検証
データクレンジングと構造化が完了したら、内容がプロセスを正確に表現しているか検証が必要です。
- スポットチェック: いくつかのプロセスインスタンスを手動で確認し、データやイベント順が妥当かチェックする
- テスト分析実施: Process Mining ツールでテスト分析してエラーや不整合が発生しないか確認
- フィードバックループ: 業務担当など専門家と連携し、実際の業務プロセスが正しく反映されているか確認します。
データクレンジングと準備のためのツール
データクレンジングや準備を効率化・自動化するツールがあります。代表例は以下の通りです:
- Python/Pandas: データ加工やクレンジングに強いプログラミング言語+ライブラリで、重複排除やフォーマット変換などを自動化できます。
- Excel/Google Sheets: 小規模データ向け。重複排除や不要行のフィルタ、列フォーマット整形など基本的なクレンジング機能があります。
- ETLツール(Extract, Transform, Load): Talend、Informatica、Apache Nifi などがデータ抽出・変換・ロードを自動化します。
- OpenRefine: 無料のオープンソースデータクレンジングツールで、複雑なデータ整理や重複排除、フォーマット統一に対応。
結論
データクレンジングと準備は、Process Mining ライフサイクルにおける重要な工程です。データセットが完全で一貫性・正確さを備えていれば、誤った分析を避け、業務プロセスの実態から有用なインサイトを得ることができます。本ドキュメントで紹介した重複排除、欠損データ補完、フォーマット統一、クリーンイベントログ作成の手順に従うことで、Process Mining から最大限の価値を引き出す準備が整います。